アップルTV「モーニングショー」

 

アップルTVで人気のドラマ「モーニングショー」を見た

ざっくりとストーリーを解説すると

 

 セクハラスキャンダルで人気キャスターの座を追われた男性

 その代わりに抜擢された若い女性ジャーナリスト

 そしてセクハラキャスターと長年コンビを組んできたベテラン女性キャスター

 この三人を軸に テレビ局内のさまざまな人間模様を描いていくドラマ

 

その中セクハラでキャスターを追われた男性に注目した

彼は容姿端麗、頭脳明晰、知性的でソフトな語り口は実にセクシー

10年以上キャスターを務めてきた

まさに全米の朝の顔

日本で言えばモーニングショーの羽鳥慎一あたりか?

その彼は局の幹部も逆らえない大人物 

人柄もよくスタッフの憧れだ

彼の誕生日には放送局をあげて誕生日パーティーが開かれて

歌ありダンスありの盛り上がりよう 

まさに放送局の王様だった

 

ところが

その王様は局内の女性スタッフにセクハラ行為を繰り返していた

憧れの王様に声をかけられ自分が認められたと喜ぶ女性もいれば

仕事ではなくセックスの対象としてみられたことに屈辱を覚える女性も

手当たり次第 好みの女性を自らの慰みものにしてきた

それが暴露されて王様の座を追われたわけだ

 

私が注目したのは キャスターの座を追われた後の彼の態度だ

彼は一切反省しない

大袈裟に絶望する なんで俺が?と怒る 

俺がなにをしたって言うんだと逆恨みをする 

そして、合意の上だった、拒否したやつは一人もいない、

俺に感謝したやつだっているのにと言い訳

じぶんを正当化するありとあらゆる行動をとり

陰ながらサポートしようとしていた人間さえも失望させる

 

みっともない 実にみっともない

 

さらに彼は放送局に行ったりもする

かつて王様として振る舞っていたと同じように局員に声をかけ笑顔を振り撒くが

誰も相手にしない そしてそのことに腹を立てて 怒鳴り散らしたりする

「何なんだみんな、俺だよ俺、みんな誕生日を祝ってくれたじゃないか

 どうしてそんなにそっけないんだよ」 と

 

王様の家庭生活は崩壊していた

息子二人にパートナーもいたが とっくの昔に夫婦生活は冷め切っていた

当然の如くその事件をきっかけに子供とパートナーは彼の元から去っていく

 

天涯孤独、一人ぼっちになった彼は単身イタリアにわたり

知り合いの豪邸に一人身を隠すようにして過ごす

そこでぼやく

 

  俺は社会から抹殺された と

 

しかし彼には一般市民からは想像もできないような資産がある

一切生活には困らない 一生遊んで暮らせる身分なのだ

なのに自分は世界一不幸な男だとさえ思う

そして

最終的には高級車を暴走させ崖から落ちて事故死をする

 

 

 

さて、ここからは私の母親の話をしよう

 

 

私の母親は韓国の南部で生まれ、終戦と共に内地に引き上げてきた引揚者だ

15で両親を看取り 親戚の間を転々として大人になった苦労人だ

父と結婚した後は長年家庭を守り私と姉を育てた

家計を助けるためにパートに出たことはあるが

フルタイムの仕事をしてきた訳じゃない

いわゆる専業主婦として生きてきた

掃除、洗濯に炊事等々 家庭内のあらゆる仕事は母親一人がやった

勿論家族は感謝している ここまで大きくなったのは母親のお陰だと思っている

だけど 

家事を恙無くこなしたことで世の中から称賛されたことはない

一度もない

世の中で母親のことを知っている人はほんの僅かだ

親族と数人の友人、知人だけ

だけど、母親は平気だ そんなこと気にもしていない

貧乏でも笑って生きてきた 逞しく生き延びてきた

絶対に絶望なんかしない 社会から抹殺されたなんてぼやいたことはない

それは

世の中で生活しているほとんどの人が似たりよったりだと知っているからだ

そう

実際 世の中の人はみんなそうだ

社会から注目されたり 称賛されたり 讃えられたりすることはない

よっぽどのことがない限りそんなことはないのだ

それが一般市民だ

 

その意味で言うと、件のキャスターは「一般市民」に戻っただけなのだ

いや、膨大な資産があるから、相当上級の「一般市民」か?

放送局という狭い社会からは追い出されたかもしれないが

決して社会から抹殺されたわけではない

なのに 彼はそう感じ そして絶望して自死を選んだ

 

 

 

 

ここからは私の話だ

 

実は私も件のキャスターと似たような経験をした

かつていた社会的地位から滑り落ちた 

社会的に抹殺されたと感じたこともある

だけど 私は絶望しなかった

それは何故か?

それは母親がいたからだ

 

仕事を首になって、老いた母親の世話をするようになった

母親の昔話を聞いていた時にふとそのことに気がついた

 

件のキャスターとは比べ物にならないが、

それでも私は世の中から感謝されたことがある

ありがとうございましたと手を強く握られたことも

お世話になりましたと頭を下げられたこともある 

首になるまでの仕事人生は世間一般と比べても幸せな方だったと思う

その私と比べると母の人生のなんと地味なことか

だけど 母は明るい いつも朗らかで元気だ 

好きなものを食べて あー幸せ 天国じゃねと笑っている

なんと逞しいことか

私は母親に学んだ 母親の生き様に励まされた 

転落したと悲観したが、ただ普通の生活に戻っただけのことだった

だから絶望もしなかったし 無論自死を選ぶこともなかった

 

 

 

件のキャスターの身の回りに母親のような人がいればなあと思った